岡山地方裁判所 昭和62年(行ウ)7号 判決 1996年12月17日
(甲事件)
原告
谷川正彦(X1)
右訴訟代理人弁護士
大石和昭
同
奥津亘
同
佐々木斉
被告
財団法人吉井川水源地域対策基金 (Y1)
右代表者理事
松本一
被告
(岡山市長) 松本一(Y2)
同
(岡山市収入役) 久山忠孝(Y3)
右被告ら訴訟代理人弁護士
片山邦宏
同
服部忠文
(乙事件)
原告
矢山有作(X2)
(ほか二〇名)
右原告ら訴訟代理人弁護士
大石和昭
同
奥津亘
同
佐々木斉
被告
財団法人吉井川水源地域対策基金 (Y1)
右代表者理事
松本一
被告
(岡山県知事) 長野士郎(Y4)
同
(岡山県出納長) 河合昭(Y5)
右被告ら訴訟代理人弁護士
片山邦宏
同
服部忠文
理由
(甲事件)
一 当事者
請求原因1は当事者間に争いがない。
二 公金の支出
請求原因2は当事者間に争いがない。
三 住民監査請求
請求原因3は当事者間に争いがない。
四 公金支出の違法性
1 前提事実
〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
<1> 苫田ダム建設計画の概要
苫田ダムは、建設省が吉井川総合開発の一環として、岡山県苫田郡奥津町久田下原地先に、現在概略次のとおり建設を予定している多目的ダムである。
ア 目的
a 洪水調節
苫田ダムの建設される地点における計画高水流量毎秒二七〇〇立方メートルのうち、毎秒二一五〇立方メートルの洪水調節を行う。
b 流水の正常な機能の維持
下流の既得用水の補給等流水の正常な機能の維持と増進を図る。
c 水道
岡山県広域水道企業団(岡山県、岡山市、津山市、瀬戸町、山陽町、赤坂町、吉井町、熊山町、和気町、佐伯町、長船町、鏡野町、中央町、久米南町、久米町、柵原町、邑久牛窓水道企業団、東備水道企業団により構成)に対し、岡山市寺山地点及び津山市中島地点において、新たに一日最大四〇万立方メートルの水道用水の取水を可能ならしめる。
d 工業用水道
麒麟麦酒株式会社に対し、瀬戸町二日市点において、新たに一日最大一万立方メートル、テイカ株式会社に対し、邑久町福山地点において、新たに一日最大一万立方メートルの工業用水の取水を可能ならしめる。
イ 主要構造物
a 本ダム(第一ダム)
位置 岡山県苫田郡奥津町久田下原地先
形式 重力式コンクリートダム
堤高 七四メートル(堤頂標高二三四メートル)
堤頂長 二三五メートル
堤体積 三六万立方メートル
b 鞍部処理工(第二ダム)
位置 苫田郡鏡野町塚谷地先
形式 ロックフィルダム
堤高 三三メートル(堤頂標高二三五メートル)
堤頂長 二七〇メートル
堤体積 四〇万立方メートル
c 貯水池
集水面積 二一七・四平方キロメートル
湛水面積 三・三平方キロメートル
常時満水位 標高二一一メートル
最低水位 標高一八九メートル
総貯水容量 八五〇〇万立方メートル
有効貯水容量 七九〇〇万立方メートル
堆砂容量 六〇〇万立方メートル
洪水調節容量 五〇〇〇万立方メートル
利水容量 二九〇〇万立方メートル
<2> 苫田ダム建設計画及び「協力感謝金」負担の経緯
昭和三二年農林省及び岡山県による苫田ダム建設構想が新聞紙上で報道されたが、当時の苫田村民らはこれに反発し、同村議会は苫田ダム建設反対の決議をし、同村民らは「苫田ダム建設阻止期成同盟会」を結成し、同盟会員、村長、村議会議長等が岡山県に出向いて苫田ダム建設反対の陳情をするなどして阻止活動を展開し、昭和三四年には当時の苫田村、羽出村及び奥津村が合併して奥津町となり、苫田ダム建設阻止の基本方針を引き継ぎ、同町においては同年六月二九日「苫田ダム阻止特別委員会条例」が制定され、ダム建設阻止活動が継続された。
昭和三九年九月吉井川流域総合開発計画により建設省が苫田ダム建設の担当となり、建設省中国地方建設局によるボーリング調査等の現地予備調査に対し、奥津町長が協力を拒み、同盟会員らが実力阻止行動に出るなどして混乱が続いたが、昭和四二年には奥津町側と中国地方建設局との間で調整が図られ、立入調査の際の混乱を回避するための合意がなされるなどした。
昭和四九年頃以降、岡山県側が苫田ダム建設促進の観点から奥津町側との協議交渉に積極的に乗り出すようになり、地区懇談会の開催や水没関係住民らに対する支援資金の貸付等の提案、説得等の活動を行った。
岡山県や吉井川の苫田ダム建設予定地点より下流域の市町は、いずれも洪水予防や水道用水の安定的確保等の必要等からダム建設促進を期待し、昭和五二年一〇月には、下流域に当たる三市一四町(岡山市、津山市、備前市、瀬戸市、熊山町、吉井町、佐伯町、和気町、日生町、牛窓町、邑久町、長船町、鏡野町、英田町、中央町、久米町、柵原町)は、「苫田ダム問題協力会」の名で下流受益団体としてダム水没関係住民に対する移転先選定費等の貸付事業等を行うようになり、昭和五四年四月二日これに岡山県も参加して被告基金を設立し、昭和五五、六年には山陽町、赤坂町、久米南町も被告基金に参加した。
建設大臣は、昭和五六年一二月特定多目的ダム法に基づき岡山県議会の同意議決を得て苫田ダムについて多目的ダム基本計画を作成公示した(なお、昭和六〇年二月基本計画の一部に変更を加えた)。
昭和五七年三月苫田ダムは水源地域対策特別措置法二条二項の指定ダム及び同法九条一項の指定ダムとして指定(昭和五七年政令二七号)された。
苫田ダムの建設計画により四七〇戸の住宅及び一五五ヘクタールの農地の水没が見込まれ、建設省は、昭和五七年から水没地域の立入調査を開始し、昭和五八年から水没地権者との補償交渉に着手し、以後今日までこれを継続し、ダム建設阻止同盟員らの阻止行動等もあったが、平成七年三月段階ではダム建設に伴う関連公共事業による移転世帯を含めた全支障移転世帯数五〇四のうち五〇二世帯の同意を得、既に四四一世帯が移転済みである。
昭和五九年一一月、岡山県及び二市、一三町、二企業団(岡山市、津山市、瀬戸町、山陽町、赤坂町、吉井町、熊山町、和気町、佐伯町、長船町、鏡野町、中央町、久米南町、久米町、柵原町、邑久牛窓水道企業団、東備水道企業団)により、苫田ダムの利水者となるべき「岡山県吉井川広域水道企業団」が設立された。
昭和六〇年五月、被告基金に参加した市町は、苫田ダム建設推進を図るため、併せて「苫田ダム対策連絡会議」を設置し、昭和六一年三月二九日、右連絡会議において、苫田ダム建設に伴う水没世帯の犠性、協力に対して感謝の気持ちを表す趣旨で、他のダム建設の事例をも勘案して、水没関係住民に一世帯当たり五〇〇万円の「協力感謝金」を交付することとし、その負担金の徴収及び交付の事務を被告基金において担当させる旨決定した。
これに従い、苫田ダム下流域の受益団体を代表する岡山県及び被告基金とダム建設推進地権者四団体との間において、昭和六一年五月三〇日建設省と右地権者四団体との間の損失補償基準協定の締結に際して、あわせて「協力感謝金」等の交付に関する概略次の一乃至三のとおりの協定が締結された。
すなわち、一、「協力感謝金」の額は水没世帯一世帯当たり五〇〇万円とする。但し、河川予定地指定の日(昭和五七年二月一二日)以前から水没予定地内に生活の本拠があるが、現に居住していない水没世帯にあっては二五〇万円とし、河川予定地指定の日の翌日から損失補償基準提示の日(昭和六〇年三月二九日)までの間に水没予定地内に生活の本拠を設け、現に居住している水没世帯にあっては一二五万円とする。二、水没世帯とは、建設省が定めた「苫田ダム補償に関する世帯認定基準」により認定された世帯であって、本協定締結時において締結団体の構成員であった世帯をいう。三、「協力感謝金」の交付手続は、被告基金が行うものとし、建設省との補償契約当事者となる水没世帯の世帯主或いは世帯員のうち最初の一名が契約を完了したときをもって開始する。
これを受けて、「苫田ダム対策連絡会議」では、昭和六一年八月二二日「協力感謝金」の負担割合について協議し、交付総額の二分の一を岡山県が、残り二分の一を三市、一七町、二企業(麒麟麦酒株式会社及びテイカ株式会社)が負担し、市町と企業との負担割合は利水容量の割合により分担し、市町間ではその六〇パーセントを利水容量により、残り四〇パーセントを人口により分担することに決め、その後、右二企業の同意を敢り付けた。
これにより、岡山市及び岡山県は、本件公金支出をした。
平成四年一月、「岡山県吉井川広域水道企業団」に、高梁川流域の二市二町一村一企業団(総社市、高梁市、有漢町、山手村、吉備高原水道企業団)が加入し、「岡山県広域水道企業団」に名称が変更された。
平成四年三月、「苫田ダム対策連絡会議」では、「協力感謝金」について、従来定めていた同意時期により交付金額に差を設ける取扱いを見直し、水没する全世帯に差を設けないで交付する取扱いに改めた。
平成六年八月、奥津町は苫田ダム建設反対の方針を変更し、「苫田ダム阻止特別委員会条例」を廃止し、ダム建設に同意し、これを受けて、建設省中国地方建設局長、岡山県知事、奥津町長及び鏡野町長の間で、ダム建設事業及びこれに伴う奥津鏡野両町の振興対策が円滑に推進されることを目的とする「苫田ダム建設事業に係る基本協定書」が締結され、同年一一月、建設省はダム建設予定地のボーリング調査を再開した。
平成七年九月二九日付け総理府告示四八号により苫田ダムについて水源地域の指定がなされ、また、苫田ダムの水源地域整備計画は同年一一月二八日に決定され、同年一二月一九日付総理府告示五三号により告示された。
この間、「苫田ダム建設阻止期成同盟会」等苫田ダム建設に反対する原告ら市民グループは、請求原因4<1>のとおりダム建設の必要性、合目的性、公益性に疑義を呈し、ダムの危険性や環境破壊面を危惧するなどして、反対運動を継続している。
以上のとおり認められる。
2 地方自治法二三二条一項、二三二条の二違反
原告は、請求原因4<1>のとおり、本件公金支出について地方自治法二三二条一項、二三二条の二違反の違法事由がある旨主張する。
前項認定によれば、本件公金支出は、岡山市及び岡山県が、いずれも洪水予防や水道用水の安定的確保等の見地から、苫田ダムの建設の推進を図り、その実現のために、水没土地買収等に協力した地権者に対して「協力感謝金」を交付することと定め、あわせて右交付事務を被告基金に担当させることとし、同被告に対してその交付金のための負担金を支出したというものであるところ、洪水予防や水道用水の安定的確保等は、住民の安全、健康及び福祉の保持(地方自治法二条三項一号)、上水道その他の給水事業(同項三号)、防災(同項八号)等の地方公共団体の例示事務に関わる岡山市及び岡山県の事務ということができ、「協力感謝金」の交付が地権者からの土地買収を促進し、それがダム建設の推進に寄与し、ひいては岡山市及び岡山県の洪水予防や水道用水の安定的確保が図られるという関係においては、本件公金支出は、岡山市及び岡山県の事務の処理のために必要な経費と認めるのが相当である。また、仮にそうでないとする余地があるとしても、本件公金支出は、その性質上、少なくとも地方自治法二三二条の二の寄附金又は補助金といい得るものである。
ところで、地方公共団体の事務処理のための必要経費の支出が違法であるというためには、その支出について裁量権の逸脱乃至濫用が認められなければならない。また、寄附金又は補助金の支出が違法であるというためには、地方自治法二三二条の二の「公益上必要がある場合」に該当しないことをいう必要がある。
そこで、検討するに、次に説示するとおり、本件公金支出について、必要経費の支出としても、裁量権の逸脱乃至濫用があったとは認められないところであり、また、寄附金又は補助金の支出としても、公益上の必要がある場合に該当しないとは認められない。
すなわち、原告は、請求原因4<1>のとおり、苫田ダム建設が住民にとって不必要且つ危険な公共性の欠如した計画であるとして、利水面、治水面、安全性、周辺環境への悪影響等の問題点を指摘し、〔証拠略〕中にはこれに沿う記載乃至供述部分があり、いずれも示唆に富むものではあるが、これに対し、被告らは、請求原因に対する認否4<1>のとおり、苫田ダムが住民のための洪水予防及び水道用水の安定的供給等に必要であり、利水面、治水面において有用であり、安全性や周辺環境に対する影響面においても十分に配慮がなされて問題はない旨反論し、〔証拠略〕中にはこれに沿う記載乃至供述部分があり、いずれもそれなりの合理性、説得性が認められるところ、これらの原被告ら双方の主張立証の内容を比較検討するに、双方の対立は、岡山県全体の水利用計画や水資源開発、吉井川水系の総合的な利用方法、環境保護、危険認識、公益認識のそれぞれ在り方等に対する根本的な見解の相違によるものとうかがわれ、原告の主張は、一つの施策としては可能な提言と解されるが、自らを是とし被告らを非とするには些か資料に乏しく、苫田ダム建設が住民にとって不必要且つ危険な公共性の欠如した
違法な計画であると認定するには未だ足りないものというべきである。もっとも、違法か適法かの問題と、賢明或いは最善かどうかの問題とは、趣を異にするものであるから、ダム建設に要する費用の厖大性、その影響の大規模性、建設立案以来約四〇年を経た時代の変化、趨勢等に照らし、今後も継続的に、より良い施策判断のため更なる調査、客観資料の開示、建設的提言の収集、議論、検討、見直し等の努力がなされることが期待される。
このように、苫田ダム建設計画の事業者である建設省の施策に、直ちに公共性の欠如にかかわる違法事由が認められない以上、ダム建設の受益団体となるべき岡山市及び岡山県が、いずれも洪水予防や水道用水の安定的確保等の見地から、苫田ダムの建設の推進を図り、その実現のために、水没土地買収等に協力した地権者に対して「協力感謝金」を交付することとして、右交付事務を担当する被告基金に対してその交付金の負担金を支出したことについて、経費の支出としての裁量権の逸脱乃至濫用があったとはいい難く、また、寄付金又は補助金の支出としての公益性に欠けるところがあったともいい難い。
したがって、本件公金支出について地方自治法二三二条一項、二三二条の二違反の違法事由があるとはいえない。
3 地方財政再建促進特別措置法二四条二項違反
原告は、請求原因4<2>のとおり、本件公金支出は地方財政再建促進特別措置法二四条二項に違反する旨主張するが、次のとおり採用できない。
すなわち、地方財政再建促進特別措置法二四条二項は、地方公共団体の国及び特定の団体に対する寄附金等の支出を禁止するものであるところ、前記のように、本件公金支出は、岡山市及び岡山県が、いずれも洪水予防や水道用水の安定的確保等の見地から、苫田ダムの建設の推進を図り、その実現のために、水没土地買収等に協力した地権者に対して「協力感謝金」を交付することと定め、あわせて右交付事務を被告基金に担当させることとし、同被告に対してその交付金の負担金を支出したというものであることからすると、右支出先である被告基金は、右条項に規定する国及び特定の団体に該当しないことは明らかであり、右支出金は、最終的には水没土地等の地権者が受領するもので、国が受領するものではないから、原告が主張するように、岡山市及び岡山県が法を潜脱するために被告基金をトンネル機関として国に対して寄附をしたものとも解し得ない。
したがって、本件公金支出について地方財政再建促進特別措置法二四条二項違反の違法事由があるとはいえない。
4 水源地域対策特別措置法八条違反
原告は、請求原因4<3>のとおり、本件公金支出は水源地域対策特別措置法八条に違反する旨主張するが、次のとおり採用できない。
すなわち、水源地域対策特別措置法八条は、関係地方公共団体等が指定ダム等の建設等に伴い生活の基盤を失うこととなる者の生活再建のために努める措置について定めたものであるが、その規定の趣旨に鑑みると、列記した措置項目以外に生活再建のための措置をとることを禁止したものとは到底解し難く、右は例示規定と解すべきものであり、「協力感謝金」についての項目がないからといって、直ちに本件公金支出を同条違反とすることは正当ではない。
なお、前記1認定のとおり、平成七年九月二九日付総理府告示四八号により苫田ダムについて水源地域の指定がなされ、苫田ダムの水源地域整備計画は同年一一月二八日に決定され、同年一二月一九日付総理府告示五三号により告示されている。
5 公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱等違反
原告は、請求原因4<4>のとおり、本件公金支出は公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱等に違反する旨主張するが、次のとおり採用できない。
すなわち、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱や閣議決定は、国や地方公共団体等の機関が事業主体として公共用地を取得する場合の損失補償の基準を作る際の大綱を示したものであって、それ自体が直接拘束力を有するものと解されないほか、前記1認定のとおり、苫田ダム建設の事業主体は建設省であり、損失補償に当たるのは国であり、岡山県及び岡山市は単にダムによる受益団体として、損失補償とは別の観点から被告基金に対して「協力感謝金」の負担金を支出したものであることからしても、右要綱等違反の問題は生じない。
なお、「協力感謝金」について、従前地権者の同意時期により交付金額に差を設けて取り扱うこととされていた点については、些か議論の余地がなくもないが、早期のダム建設を希望する受益団体の立場からすると、あながち直ちに違法とまではいい難く、前記1認定のとおり、その後同意時期による区別は撤廃されたから、その点の問題は解消されたものというべきである。
6 まとめ
以上によれば、本件公金支出については、原告主張の違法事由はいずれも認められないものというべきである。
五 結論
よって、原告の本訴請求はその余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(乙事件)
一 当事者
請求原因1は当事者間に争いがない。
二 公金の支出
請求原因2は当事者間に争いがない。
三 住民監査請求
請求原因3は当事者間に争いがない。
四 公金支出の違法性
1 前提事実
甲事件の理由説示四1と同様(但し、「原告」は「原告ら」と読み替える)
2 地方自治法二三二条一項、二三二条の二違反
甲事件の理由説示四2と同様(但し、「原告」は「原告ら」と読み替える)
3 地方財政再建促進特別措置法二四条二項違反
甲事件の理由説示四3と同様(但し、「原告」は「原告ら」と読み替える)
4 地方財政法二条一項違反
原告らは、請求原因4<3>のとおり、本件公金支出は地方財政法二条一項に違反する旨主張するが、次のとおり採用できない。
すなわち、地方財政法二条一項は、地方公共団体が国の財政や他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行うことを禁止しているが、前記1認定のとおり、岡山県は被告基金及び「苫田ダム対策連絡会議」の一構成団体として「協力感謝金」の負担金の支出に関して協議に参加し、これに従って本件公金支出をしたものであるから、これをもって岡山県が他の市町の財政に累を及ぼすような施策を行ったとは到底評価し難い。他に地方財政法二条一項の違反事由は認められない。
5 地方財政法四条の五違反
原告らは、請求原因4<4>のとおり、本件公金支出は地方財政法四条の五に違反する旨主張するが、次のとおり採用できない。
すなわち、地方財政法四条の五は、地方公共団体による他の地方公共団体又は住民に対する直接間接の寄附金割当強制徴収を禁止しているが、被告基金に対する岡山市等の関係市町の負担金拠出の経緯は前記1認定のとおりであり、岡山県が関係市町に対して右負担金支出を強要したとは到底認められず、また、岡山県が県としての優越的地位を利用して関係市町に心理的、社会的圧力を加えた事実も認められない。他に地方財政法四条の五の違反事由は認められない。
6 水源地域対策特別措置法八条違反
甲事件の理由説示四4と同様(但し、「原告」は「原告ら」と読み替える)
7 公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱等違反
甲事件の理由説示四5と同様(但し、「原告」は「原告ら」と読み替える)
8 まとめ
以上によれば、本件公金支出については、原告ら主張の違法事由はいずれも認められないものというべきである。
五 結論
よって、原告らの本訴請求はその余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 白井俊美 藤原道子)